2003年度

◆3月例会(第122回総合部会例会)のご案内

日時2004年3月6日(土) 午後3時~5時半
場所:芝浦工業大学 本館2階 第1会議室
※JR山手線・京浜東北線・田町駅東口より徒歩3分、または都営三田線三田駅より徒歩5分
周辺地図・構内図等は、芝浦工大のホームページをごらん下さい。
http://www.shibaura-it.ac.jp/access/index.html

演者:鈴木 正子(すずき まさこ)氏
演題:重層する喪失と関係の遠ざかりの中で発生する怒り
-心筋梗塞発症後二年にわたり怒りを爆発させる強迫神経症病者の怒りの発生状況分析から-
○東洋英和女学院大学大学院人間科学研究科博士後期課程 鈴木正子
東洋英和女学院大学大学院人間科学研究科 平山正実
要旨
筆者がここ2年間ケアの立場から継続面接している一症例についての、怒りと悲しみに注目する。長期慢性に病むことによってもたらされる喪失とそれに対す る悼みは、単に医学生物学的な疾病の概念を超え、時間と関係の中における人為的で、しかも重層的な様相を示す。表題のとおり怒りを呈するようになった症例 の怒りの発生状況を分析すると、三つの要件が相重なって起こっている中で発生していることが分かる。その三要件とは健康上の問題、重要な他者との関係の変 化、自己のプライドに関わる問題である。長く病む生活、その過程で喪われる人生上の諸活動と達成感、社会的経済的基盤の喪失、失われる家庭、これらは、ま ず健康を喪うことによって身体への信頼感をなくし、あらゆる社会的能力を身につけることから脱落することによる自尊感情の損なわれ、実績と将来の展望の喪 失をもたらし、実存が脅かされる状況に置かれる。すなわち、スピリチュアルペインであると言える。本症例の場合、まさに人間的状況によって怒りはもたらさ れていると言える。
怒りの対象は自己の理解を越えるもの、不特定多数の健康な人、最も身近で自己を支える人、身近な病者仲間の4つに向けられ、怒りの内容は1.自己の理解 を越えるものへの怒り2.健康な人への嫉妬3.甘え4.死への直面という特殊な体験をした優越感と劣等感である。ケアの立場からの倫理的課題を考察する機 会としたい。

基本文献
1.ジョン・H・ハーヴェイ/安藤清志訳:悲しみに言葉を.誠心書房.2002.
2.H・コフート/林直樹訳:自己心理学とヒューマニティ.金剛出版.1996.
3.E・フロム/作田啓一,佐野哲郎訳:破壊(上).1975.

◆2月例会(第121回総合部会例会)

日時2004年2月8日(日) 午後3時~5時30分 (日時にご注意下さい)
場所:日本医科大学 第1講堂 (5号館4階(エレベータの前))
地下鉄南北線「東大前」、千代田線「千駄木」又は「根津」下車、
いずれも徒歩約10分。
※周辺地図・構内図等は、日本医大のホームページをごらん下さい。
http://www.nms.ac.jp/

演者:大西 奈保子 (おおにし なおこ) 氏
演題:ターミナルケアに携わる看護師の体験
要旨
ターミナルケアに携わる看護師は病名告知や予後告知などに関わったり、病状がよくならないことによる患者やその家族からの怒りや苦しみを見たり聴いた り、医療者間の意見の不一致など、様々なストレスフルな状況におかれています。先行研究でもそのような看護師のストレスやジレンマ、バーンアウトや悲嘆を 扱った報告があります。しかし、そのようなストレスフルな状況の中でもターミナルケアを続けている看護師も大勢いるのも事実です。

ターミナルケアに携わるというのはどういうことなのかということを目的にして、25名のターミナルケアに携わる看護師にインタビューを行ない、その内容 を質的帰納的方法論を用いて分析しました。その結果、看護師の死生観が看護師の患者や家族に対する姿勢に影響を及ぼしていること、つまり、看護師が死や ターミナルケアについてどのような死生観を持っているかで看護師の行なうケアの仕方に影響するということがわかりました。また、看護師が患者やその家族に 感情移入をすることで、看護師の悲嘆の問題に影響する一方で、看護師が患者や家族から癒しを受けるチャンスになることもわかりました。

今回は、実際の看護師の語りをまじえながら、死生観と看護師のケア行動との関係と、感情移入によるメリット・デメリットを紹介したいと思います。

自己紹介:
1968年、東京生れ。国立相模原病院付属看護学校卒業後、看護師として川崎協同病院で5年間、外科・内科病棟にて勤務。その後、健和会柳原病院、内科病 棟に移り、現在も勤務しています。臨床経験はトータルで10数年あり、ターミナルケアに強い関心があることから、死生学がある東洋英和女学院大学大学院・ 人間科学研究科に入学して現在、博士後期(臨床死生学)に在籍しています。今回、発表させていただく内容は東洋英和女学院大学大学院に提出した修士論文の 一部で、2003年12月に日本看護科学学会に発表した内容でもあります。今後の抱負として、以前、川崎協同病院で「気管チューブ抜去・薬剤投与事件」の 当事者の医師と一緒に働いた経験があり、あの事件を医師と看護師の関係という視点から捉えなおしたいと思っています。

2月例会の発表に関する問い合わせ
※当日配布の原稿・資料は、事務局でお預かりしておりますので、ご希望の方
は事務局までお問い合わせください。

◆1月例会(第120回総合部会例会)

日時2004年1月10日(土) 午後2時-5時
場所:芝浦工業大学 本館第1会議室2階
※JR山手線・京浜東北線・田町駅東口より徒歩3分、または都営三田線三田駅より徒歩5分
周辺地図・構内図等は、芝浦工大のホームページをごらん下さい。
http://www.shibaura-it.ac.jp/access/index.html

【発表内容】
演者:五十子 敬子(いらこ けいこ)氏
演題:安楽死をめぐって
要旨
日本で安楽死の法制化についての討論がはじめてなされたのは、1882(明治15)年のことで、そこでは安楽死という言葉はなく、「患者ガ決心ヲ求ムル 時」と表現されていた。安楽死すなわちeuthanasiaはもともとギリシャ語のよき死に由来するといわれており、現代医学では、治癒の見込みがまった くなく死期の切迫した病者が、耐え難い肉体的苦痛に襲われている際に本人の嘱託によりその苦痛を除去するため、死期を早める処置をとることをいう。すでに 江戸時代の神澤貞幹編述の『翁草』に、「流人の話」(池島義家校訂[京都
五車楼蔵板]、歴史図書社)として安楽死が記されており、明治期になって、鴎外がそれをもとに『高瀬舟』を書き、話題となった。この問題に関しては、昭和 25年以来7件の判例が出ているが、いずれも執行猶予がついているものの有罪になっている。安楽死の施術は、病者の死期を早めるのであるから、基本
的には刑法上殺人罪ないし嘱託殺人罪に該当する。昭和37(1962)年に名古屋高裁で安楽死容認のための6要件が、平成4年に横浜地裁で4要件が出された。
一方、ヨーロッパで最初の安楽死容認の要件が出されたのは1971年で、オランダにおけるポストマ医師の事件であった。その後オランダでは、さらなる判 例の積み重ねにより基準が形成され、2001年4月に「要請に基づく生命の終結と自殺幇助の審査手続きおよび刑法と遺体埋葬法改正」が上院を通過し、翌年 より施行している。またベルギーでも2002年5月安楽死法が可決され、特定の条件の下で、終末期患者が死を望むときに医師が幇助をすることを許容した。 以上を前提として、次の順序で本報告を進めることとする。

1.安楽死の概念
オランダを始め、ベルギーおよびオレゴン州のいわゆる安楽死法について考察する。
2.治療の中止と差し控えについて
イギリスおよびアメリカにおける治療の中止と差し控えについて検討し、持続的代理権法と代理意思決定について述べる。
3.考察と展望
現代日本における安楽死問題を考察し、展望を試みたい。

基本文献:
・『死をめぐる自己決定について-比較法的視座からの考察-』(批評社、  1997年)
・「英国のおける死をめぐる自己決定について」(『比較法制研究』第22号)
・「安楽死と疼痛緩和医療ーオランダ[要請による生命の集結および自殺幇助 (審査手続 き)法]施行を機に考える」(『尚美学園大学総合政策学部紀  要』第3・4合併号)
所属:尚美学園大学・総合政策学部教授

1月例会(前回・1月10日)の発表に関する問い合わせ
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◆12月総合部会例会(第119回)

日時12月6日(土) 午後2時-5時
場所:日本医科大学 第一講堂(5号館4階 エレベーターの前)
地下鉄南北線「東大前」、千代田線「千駄木」又は「根津」下車、
いずれも徒歩約10分。
※周辺地図・構内図等は、日本医大のホームページをごらん下さい。
http://www.nms.ac.jp/

【発表内容】(本月は発表者は2名です)

1.
演者:重野豊隆氏(東洋大学)
演題:終末期患者におけるDNR指示
―患者と家族にとっての蘇生率の意味を巡って―(仮題)
2.
演者:船木祝氏(トリア大学現代倫理学研究所研究員)
演題:ドイツにおける積極的安楽死をめぐる論争-人間の尊厳の所在-
要旨
ドイツ人道死協会は、2003年10月23日付けのその声明において、ドイツでは多くの市民が「尊厳のない、彼ら個人にとって耐えがたい状態で」死を迎 えていることを指摘し、「人間の尊厳」を守るためには積極的安楽死を容認すべきであると主張する。同声明に拠れば、「人間の尊厳」に関しては「各々の市民 が彼ら自身の個性的な尊厳理解を持ち得るものである」のであって、その個人の意志決定を尊重することが何よりも「人間の尊厳」を保護することになる。
一方ドイツ連邦医師会は、1998年に採択した『医師による死にゆくことの付き添いについての連邦医師会の基本的原則』の中で「積極的安楽死は、たとえ 患者の要請のもとに行われるにせよ許されない」ものであるとし、「人間の尊厳に相応しい世話、温かい処置、体の手入れ、痛みや呼吸困難や吐き気を和らげる こと、空腹やのどの渇きを鎮めること」などの緩和医療の重要性を強調した。ドイツ医師会第106回大会(2003年5月22日)に基づく声明においても、 ドイツ連邦医師会代表は「治療的療法の手立てがもはやないような患者との関わり」は「身体的、心理的、社会的、精神的苦悩」と結び付くものであるとし、緩 和医療の強化の必要性を呼びかけている。即ちそこではたとえ患者個人が積極的安楽死を望むとしても、「人間の尊厳」は「自己決定する自由」よりも高位にあ るものであるのであって、むしろそれを制限するものとしての意義を有するものとして位置付けられている。それゆえ「人間の尊厳」は患者個人だけによるので はなく、親族、看護にあたる人、医師、医療スタッフが共同で実現すべき課題として捉えられる。
このように「人間の尊厳」概念の解釈の違いから、全く異なる態度決定が導き出されることになる。「人間の尊厳」概念は元来、「あらゆる人間には、その身 体的、心理的、精神的、社会的状態如何に拘わらず無条件的価値があるものとする」ものである。そこでは他者が或る個人を尊厳あるものと見なすかどうかの評 価のみならず、各個人が自分自身をどのように評価するのかも重要な観点となる。「人間の尊厳」は従って既に完全に存立していたり、あるいは既に喪失してし まっているというものとしてではなく、自己並びに周囲の者が個々の状況でその都度実現すべき課題として与えられているものとして解されるべきものなのでは なかろうか。
基本文献:連邦医師会(http://www.bundesaerztekammer.de
ドイツ人道死協会(http://www.dghs.de/

12月例会の発表に関する問い合わせ
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◆11月総合部会例会(第118回)

日時2003年11月9日() 午後2時30分-5時
場所:東洋大学白山校舎 井上円了記念館(正門を登ったところにある5号館) 5302号室
都営三田線「白山」駅下車5分
(大学周辺の地図等詳細につきましては、東洋大学のホ-ムページ
http://www.toyo.ac.jp の「キャンパス情報」をご参照ください。)

【発表内容】
演者:宮下 浩明(みやした ひろあき)氏(聖隷三方原病院)
演題:終末期医療における治療の選択について
~患者個別的な価値の視点から検討する
要旨
がん末期医療あるいは高齢者医療においては、 延命治療の拒否、侵襲的な処置が控えられるなど、結果的に医学的な適応よりも個人の嗜好が優先されることも多い。本人の意向に従った選択が結果的に生命の 短縮につながり得ることを考えるならば、個別的な価値が医学的治療方針に優先されるべき根拠を明らかにする必要があると考える。
はじめに尊厳死協会への入会の経緯についての記述および、尊厳死の宣言文の内容を検討し、患者個別的な価値観、ありように照らして治療が選択されること の重要性が言明されていることを示す。実際に、高齢者の末期癌患者が、栄養補給のための経鼻腔的的栄養チューブの装着を拒否する事例においては、苦しみの 拒否としての治療の選択がなされていることを確認する。
次に、欧米における終末期患者の研究から、終末期を生きる人々は、自らのありようから治療を選択する場合があることを述べる。そして、これらの研究の結 果から、自分の「あり方」から死が望まれていることを確認する。日本における臨床例として、耐え難い呼吸困難から鎮静に至った例を示す。本人の望んだ自ら の苦しまないあり方に照らして治療が選択されていることから、欧米と同様、日常の臨床現場においても本人のあり方から治療が選択されることがまれではない ことを確認する。
終末期にあって病者は、医学的な理由からではなく、個別の価値観にもとづいて治療が選択される場合があるといえ、終末期にあって表出される「あり方」
は、時として命を代償とすることをも辞さないほどの意味合いをもち得ることを、研究の結果から示す。患者にとってのあり方は、時に死の選択と同等の価値をもつものとしてあらわれ得ることを考慮するならば、医療的価値観は「あり方」において試されるべきである。

第118回・11月9日の発表に関する問い合わせ:
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◆10月総合部会例会(第117回)

日時2003年10月19日(日) 午後2時-5時
場所:東洋大学白山校舎2号館第2会議室
都営三田線「白山」駅下車5分
(大学周辺の地図等詳細につきましては、東洋大学のホ-ムページhttp://www.toyo.ac.jp の「キャンパス情報」をご参照ください。)

【発表内容】
演者:藤野昭宏氏(産業医科大学)
演題:産業医科大学における「医学概論」教育
要旨
産業医科大学では、「人間愛に徹し、生涯にわたって哲学する医師を養成する」という開学以来の建学の精神を重視し、医学部医学科の1年、2年、3年、5年、6年の学生を対象に下記に示す内容の講義と実習を行っている。

I. Early Medical Exposure(早期医療体験)(1年次) 講義と実習:28コマ
(2単位)
入学者全員を対象に、重症心身障害児施設で2泊3日の体験学習を行っている。これは、医学専門教育未修の新入生の立場で、いきなり治療困難な医療現場に遭遇し、医療の厳しさとその限界を身をもって体験することを目的としている。

II. 生命倫理・医学史(2年次) 講義:12コマ(2単位)
古典的な医の倫理から現代バイオエシックスまでを歴史的・体系的に講義している。講義テーマは、バイオエシックス入門、インフォームド・コンセントの基礎と実際、人格論、医療資源の配分、生殖医療、臓器移植、ヒトゲノム解析などである。

III. コミュニケーション医学、医療人類学(東洋医学)(3年次) 講義12コマ(2単位)
医療面接の方法について、症例のシナリオを用いて医師ー患者関係のロールプレイを行っている。これは、5年次の先取り学習として取り入れたものである。医療人類学では、臨床人類学や東洋医学の講義を行っている。

IV. 医療面接実習(5年次) 実習7コマ(臨床診断学の一部として実施)
OSCE (Objective Structured Clinical Examination)で医療面接を担当しているため、模擬患者 の方々に協力していただいて面接実習を行っている。模擬患者の方々は、自主的に参加されている市民の方々であり、医学概論教室が主催して月に1?2回の研究会を行っている。

V. 臨床死生学、臨床倫理(6年次) 講義:13コマ(2単位)
臨床実習が終了した最終学年ということで、死生学とClinical Case Studyの講義を行っている。また、模擬患者の参加による医療面接の上級編として、臨床判断が求められるシナリオで学生時代最後の実習を行っている。

VI. 産業医の倫理(卒後教育)
学内の産業医実務研修センターで、卒後4~6年目の医師を対象に「産業医の倫理」の基礎と実践演習を年に8コマ担当している。

発表当日は、上記の各々の詳細について、現状の紹介とともに今後の課題を含めて解説させていただきたい。

◆9月総合部会例会(第116回)

日時2003年9月6日() 午後2時-5時
場所:立正大学3号館2階、321教室

会場案内:立正大学大崎キャンパスへのアクセス
〒141-8602 東京都品川区大崎4-2-16
JR山手線 五反田駅または大崎駅下車徒歩7分
都営浅草線 五反田駅下車徒歩7分
東急池上線(JR五反田駅より) 大崎広小路駅下車徒歩3分
※会場への道について。
6月に五反田ないし、大崎広小路駅方面からお出でくださった方が、使った道は(コンビニを曲がって入る道は)、現在工事中のために通行できません。ですか ら、コンビニをまがらずに、まっすぐ進んで、大崎警察署を過ぎて、右にまがり、立正大学の正門から会場においでください。

【発表内容】
演者:冲永隆子(おきなが たかこ)氏 (帝京大学短期大学情報ビジネス学科)
演題:安楽死・尊厳死の課題
(仮)末期がん患者への宗教的アプローチによるスピリチュアル・ケアの可能性

要旨
本研究の目的は、我が国のターミナル・ケアにおける精神的援助、とりわけ、スピリチュアル・ケアや宗教的ケアの現状と問題点を探ることにある。スピリチュ アル・ケアは、定義上宗教的ケアよりは広い概念ではあるが、一部には宗教的ケアの一環として捉えられ、その評価に問題がある。
本研究では、概して私たち日本人は特定の宗教・信仰をもたないといわれる中で、実際に緩和ケアの現場でなされる、宗教的アプローチないしは非宗教的アプ ローチからのスピリチュアル・ケアの事例を通して、スピリチュアル・ケアとはいかなるものであるのかを検討する。本発表では、まず、1)先行研究からスピ リチュアル・ケアと宗教的ケアをめぐる概念整理を試み、従来いわれている問題点の整理を行なう。また、2)我が国におけるターミナル・ケアの宗教的ケアの 可能性について、宗教意識の地域的差異からの考察、及び宗教学考察の二つの観点から検討し、次いで、3)近年注目
されつつある、スピリチュアル・ケアの概念やあり方をめぐって、調査対象の各々緩和ケア病棟スタッフへのインタビューに基づく考察を行ない、精神的ケアの展望を探りたい。
最終的には、スピリチュアル・ケアに対する病院スタッフの評価に関する4者の事例に基づき、スピリチュアル・ケアは宗教的ケアを通して可能であるが、それを求めない人(患者)に対しても可能なケアであるということを結論づける。

キーワード:末期がん患者、緩和ケア、ターミナル・ケア、宗教的ケア、スピリチュアル・ケア

《基本文献》
1)武田文和訳、世界保健機関編『がんの痛みからの解放とパリアティブ・ケア
―がん患者の生命へのよき支援のために―』 金原出版株式会社、1999年。
2)窪寺俊之 『スピリチュアルケア入門』 三輪書店、2000年。
3)藤井理恵、藤井美和 『たましいのケア―病む人のかたわらに』 いのちのことば社、2000年。

《最近の著書/論文等》
1)中村(冲永)隆子「患者の心を支えるために―ホスピスとビハーラにおける宗教的援助の試み」共著、カール・ベッカー編『生と死のケアを考える』法蔵館、2000年、254‐263頁。
また、以下の論文を近日掲載予定。
・「末期がん患者への宗教的アプローチによるスピリチュアル・ケアの可能性」『ホスピスケアと在宅ケア』2003年(通巻29号)。
・「ホスピスとビハーラにおけるスピリチュアル・ケアの試み(仮)」共著、財団法人国際宗教研究所編集委員会(島薗進)編『現代宗教2004-特集「死の現在」』(2004年3月刊行予定)。

自己紹介:
1969年大阪生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科環境相関解析論講座(博士後期過程)単位取得満期修了。2000~2002年:国立医療・病院管理研究所 医療政策研究部 協力研究員(非常勤)としてがん対策班。2001年~現在に至る:
東京農業大学応用生物科学部 生物応用化学科及びバイオサイエンス学科にて「生命倫理」担当非常勤講師。2002年~現在に至る:国立成育医療センター研 究委託事業(厚生労働省健康局委託事業研究)「生殖補助医療に関する倫理的問題研究」協力研究員。2003年4月~現在に至る:帝京大学短期大学情報ビジ ネス学科にて「ライフサイエンス」専任講師。

総合部会(第116回・9月6日)の発表に関する問い合わせ
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◆7月総合部会(第115回)

日時2003年7月5日() 午後2時30分-5時
場所:日本医科大学5号館4階第1講堂
地下鉄南北線「東大前」下車、千代田線「千駄木」あるいは「根津」下車、
いずれも徒歩約10分。
(周辺地図は、下記の日本医科大学のホ-ムページをご覧下さい。)
http://www.nms.ac.jp/pr/abt/abtcon/index.html

【発表内容】
演者:近藤均(こんどう ひとし)氏(旭川医科大学)
演題:医学教育モデル・コア・カリキュラムへの対応 -旭川医大の斬新な試み-

要旨
2001年3月に全国医学部共通の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」(以下、コアカリ)が発表され、その後、各大学は対応におわれてきた。旭川医大 医学科でも急遽、カリキュラムの手直しを行なった。手直しの結果、昨年度入学生から、広義の「倫理」に関する本学のカリキュラム編成は以下のとおりとなっ た。

1.コアカリ「A 基本事項」の中核をなす「医の倫理と生命倫理」「患者の権利」「医師の義務と裁量権」「インフォームド・コンセント」「安全性の確保」 「危機管理」「コミュニケーション」「患者と医師の関係」「チーム医療」「医療の評価」については、60分授業で週1回ずつ、第1学年から第4学年まで、 計120時間・8単位にわたって講義する。
2.「課題探求・解決能力」「論理的思考と表現能力」「生涯学習への準備」は、第1学年前期と第4学年後期に展開される演習「医学チュートリアル」(計6単位)の中で涵養する。
3.コアカリ以外に、看護学科との合同による倫理関連選択科目として、「哲学基礎」「医療人間学」「応用倫理」(各60分×15コマ=1単位)があり、第1,2学年が選択できる。

このように旭川医大では、従来以上に倫理教育に力を注ぐことになった。しかも、他大学にはあまり見られない以下のような体制を整えている。

1.倫理教育は第1学年の前期を中心に90~100分授業で展開する大学が多いが、本学では、60分授業で週1回ずつ小刻みに4年間にわたって展開することにより、飽きのこない授業展開で医師・医学研究者としての素養をじっくり涵養することが可能となった。
2.本学では定員削減に伴って哲学・倫理学の専任教官はいなくなった。しかし、それだけにかえって、優秀な複数の非常勤講師を招聘して多角的な視野から倫理教育ができるようになった。
3.哲学・倫理学関係の複数の非常勤講師だけでなく、歴史学(医学医療史専攻)・社会学(医療社会学・医療人類学専攻)・ドイツ語(コミュニケーション論 専攻)の専任教官も協力し、さらに、法医学や内科学などの分野から倫理に造詣の深いMDも加わって、重層的な倫理教育を行なう体制が整った。

旭川医大は、独立行政法人化を控え、しかも、地理的事情から当面は他のいかなる大学とも統合はしないという方針を固め、単科医科大学として生き残りを賭け た戦いを展開している。教育理念は大学発足当初より「地域医療に貢献する立派な医療人の育成」であり、当該学生への倫理教育の重要性はいうまでもない。
医学(部)教育をめぐる諸情勢の激変の中で、専任の教員はもちろん、専任のポストをめざす非常勤講師にも意識改革が要求されている。本学の倫理教育をめぐる斬新な取り組みが各位の参考にもなればと思う。

演者略歴:
1954年東京生まれ。順天堂大学医学部講師(非常勤)などを経て、1998年から教授医学旭川医科大学部(基礎教育系 歴史)。共編『生命倫理事典』(2002年太陽出版刊)、共著『東と西の医療文化』(2001年思文閣出版刊)ほか。

第115回・7月5日の発表に関する問い合わせ
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◆6月総合部会(第114回)

日時:2003年6月7日(土)午後2時-5時
場所:立正大学(大崎校舎)1号館2階第2会議室〔2階の奥です〕
(案内の看板は、「立正大学哲学会(医学哲学倫理学関東支部)」となっています。)
※会場案内:立正大学大崎キャンパスへのアクセス
●〒141-8602 東京都品川区大崎4-2-16
●JR山手線 五反田駅または大崎駅下車徒歩7分
●都営浅草線 五反田駅下車徒歩7分
●東急池上線(JR五反田駅より) 大崎広小路駅下車徒歩3分
(会場周辺地図については、立正大学のホ-ム・ページをご覧ください。http://www.ris.ac.jp/access/index.html)

【発表内容】
演者:樫則章(かたぎ のりあき)氏(大阪歯科大学歯学部倫理学教室)
演題:医療倫理教育の課題――医療とは何か――
要旨
医療倫理教育にはさまざまな課題があるが、ここでは、歯学部の教員として、学生に医療倫理教育を担当している立場からひとつの問題について考えてみたい。 その問題とは、医療はビジネス(にすぎない)かという問題である。これは、一方で、あるべき医師‐患者関係について考察するときに避けて通れない問題であ るが、他方で、歯学部(医学部でも事情は同じであるだろうが)の学生に対して、歯科医師になるということはどういうことであるのか、なぜ患者の権利を尊重 しなければならないのかといった問題について教える際に中心的な意味をもつ問題であると考えられる。また、この問題は、たんなる知識教育にとどまらない態 度教育という観点からもきわめて重要な問題であると言える。はたして医療はビジネスであるのか、それともそうではないのか。最近、わが国でもしばしば耳に するようなった「医療消費者」という視点にも言及しながら検討したい。

《基本文献》
1)David T. Ozar and David J. Sokol, Dental Ethics At Chairside :Professional
Principles and Practical Applications (Mosby, 1994)
2)樫 則章「医師と患者」(石崎嘉彦、山内廣隆編『人間論の21世紀的課題』ナカニシヤ出版,1997年,156‐173頁)
3)樫 則章「医療はビジネスか」(『社会哲学研究資料集Ⅱ「21世紀日本の重要諸課題の総合的把握を目指す社会哲学的研究」』平成14年度科学研究費補助金(基盤(B)(1))研究成果報告書,研究代表者 加茂直樹,平成15年3月,40頁)

《最近の著書/論文等》
1)『歯科医療倫理』(共著)(医歯薬出版、2002年)
2)「自律をめぐる諸問題」(加茂直樹編『社会哲学を学ぶ人のために』世界思想社、2001年、66-77頁)
3)リチャード・ノーマン『道徳の哲学者たち 第2版』(共訳、ナカニシヤ出版、2001
年)
また、2003年中に、マイケル・スミス『道徳の中心問題』(ナカニシヤ出版)、ピーター
・シンガー『ひとつの世界』(昭和堂)を監訳して出版予定。

第114回・6月7日の発表に関するお問い合せ
当日配布原稿・資料は、事務局でお預かりしておりますので、ご希望の方は事務局までお問い合わせください。

◆第113回総合部会
(総合部会代表 黒須三惠)

期日:2003年5月10日()午後2時から5時頃まで
場所:日本医科大学5号館4階第2講堂
南北線「東大前」下車、千代田線「千駄木」あるいは「根津」下車、各徒歩10分程度 (周辺地図につきましては、以下の日本医科大学のホ-ムペイジをご覧下さい。http://www.nms.ac.jp/pr/abt/abtcon/index.html.)

2時から2時10分まで 会員紹介

2時10分から5時頃まで 発表

演題:「医療倫理教育」を考える--歯学教育の現場で--
演者: 関根透氏(鶴見大学歯学部)
要旨:平成16年度から共用試験(CBT)が医学・歯学の教育現場で一斉に実施されます  。しかし、各大学間で共通の講義がされているわけでもありません。医学・歯学モデル・コア・カリキュラムで概括が示されているものの、あまり具体的ではあ りません。各大学で共通性のある試験問題が「CBT問題作成分科会」に送られているとは思われません。そこで、歯学教育の現場で、どの程度講義していいの か、国家試験問題との違いなどを明確にする必要があると思います。特に、「医の原則」は抽象的な表現で、範囲を限定するのが難しく、何処まで講義すべき か、苦慮しているのが現状です。私が歯学部で講義していないことが、他の歯科大学では教育され、共用試験に出題されていたら、受験生に対して責任を感じま す。是非ともこの学会なりで統一した「医の原則」の範囲を、具体的に話し合ってもらえればありがたいです。そのために、私が歯学部で教育している「医の原 則」の部分を、問題提起として示したいと思います。そのために、若干の資料を提供します。

その資料として、以下のような資料を配布する予定です。

① 医学教育モデル・コア・カリキュラム A 基本原則 1 医の原則
② 歯学教育モデル・コア・カリキュラム A 医の原則
③ 平成14年度「歯科医師国家試験出題基準」 歯科医療と倫理
④ 私が歯科大学で教育した「医の原則」(一部分)A・4 「インフォームド・コ
ンセント」
⑤ CBT問題作成用紙(本学用)

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