荒川報告要旨

患者への日常的、個別的、文書による診療情報提供

―患者と医師の双方における負担と利益、患者の自己決定への有用性を考えるー

 

荒川迪生1、荒川淳子1、吉田麗己2、遠渡豊寛3、吉田達彦4

岐阜かかりつけ医グループ(荒川医院1、吉田医院2、遠渡内科3

岐阜市薬剤師会 会営 ぎふ西調剤薬局4

 

はじめに

電子機器による診療記録の保存能力は飛躍的であるが、診療録自体は依然として粗雑で断片的で、整理が遅滞している。診療情報整理の基本のひとつは、初診時からの診療を概括し、実用的で適切に要件を満たした診療情報の要約(サマリー)作成である。これはかかりつけ医自身の個人内診療の深化を図る垂直的分析である。もうひとつは、かかりつけ医と患者・対診医・薬剤師・医療スタッフ間で、診療情報のサマリーを共有することである。これは関係者個人間の診療コミュニケーションを図る水平的分析である。とりわけ、患者中心の診療情報共有が、患者の自己決定に貢献すると考える。

目的

本報告の目的は「外来診療の要約」の様式を標準化し、年1回更新する「年刊サマリー」を患者に提供し、併せて健康管理手帳に診察所見、各種検査所見を網羅した診療内容を開示することの実用性と有用性を分析することである

方法

外来患者を対象に、初診時からの全経過の主要部分を抜粋し、Microsoft Excel 2010 ワークシートを用い、1年に1回要約(以下、年刊サマリー)した。年刊サマリーの様式は試行錯誤した。今回は2011年11月から年刊サマリー作成を開始した。患者には健康管理手帳を配布し、年刊サマリー、受診時身体所見、血液検査結果等を記載、貼付した。アンケート調査により、年刊サマリーと健康管理手帳の実態を評価した(2012年2月28日~3月6日間の“連続”の定期受診患者114名)。

結果

2012年4月末で、年刊サマリー完了分は約300名、未完了分は約200名であった。年刊サマリーには傷病名欄、処方欄、検体検査欄、生体検査欄、画像診断欄、診療計画欄を設け、各欄には所見内容、傷病開始日、検査・処方年月日を記載した。薬剤の開始、変更、終了などでは、その経緯・理由を略記した。

年刊サマリーは診療全経過を実用的に明示するために、 A4判1ページに収めた。年刊サマリーの作成は、1件当たり新規分で30分、継続分で20分であった。記録内容に不備がある場合には、原記録の確認に時間を要した。

アンケート結果は、年齢構成(歳代;名):30;2、40;5、50;23、50;44、70;24、80;14、90;2、健康管理手帳を見る者は82名(72%)、病気把握に有用とする者は93名(87%)、今後も希望する者は101名(89%)であった。

考察

年刊サマリーは診療の質向上、患者の信頼増強に有用であった。

健康管理手帳の活用により、患者中心の医療、日常的診療情報提供ができた。対診の際には所定の診療情報提供書に加えて年刊サマリーを添付した。院内医療関係者は年刊サマリーにより、代診・対診・看護・調剤・窓口業務(明細書や薬剤情報提供書関連)を的確に実施できた。

アンケートに記載された管理手帳の有用性を列記する:①自主的自己管理価値:いつ、どんな検査、どんな薬を飲んでいたかなど確認できる。病気の内容、体の状態、血圧・検査データの推移がわかる。自分なりに理解し、忘れないよう、記録しておいた方がよい。自分の病歴等が正確に記録されているものがあることは大切。②伝達改善価値:初めての診察では、自分が説明するよりも手帳を見せた方がよい。薬剤の確認、重複防止が可能である。他の病院へ行った時に見せられる。自分の説明が要らない。救急時自分の口で言えない場合に見せられる。他医受診時説明しやすいし、理解してもらえる、情報の伝達が速い。③医療の信頼安心価値:役に立つことがありそう。何かあったらすぐ処置できると思うので、持っていると安心。自分で管理できないので安心。

結論

  年刊サマリーは労力と時間のかかる作業ではあるが、かかりつけ医は自身の診療補強や修正ができ、対診医等に対する診療情報の伝達が改善できる。院内医療関係者は診療内容を確認でき、分担業務を遂行できる。健康管理手帳を介した診療開示により、患者自身は診療内容を確認でき、かかりつけ医の信頼が増す。アンケート結果からは、患者が自主的に自己管理する姿勢、自己決定の強化が推測されるものの、かかりつけ医の自主的サービスに依存する面も大きいと推測される。

参考文献

荒川迪生、川出靖彦、吉田麗己、他:かかりつけ医における外来診療情報の年刊サマリー

―診療の質を高め、情報を共有する― 医療情報学 Vol32、No.1 2012.5.7 印刷中

関東医学哲学・倫理学会発表:H24.6.2

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