2001年度以前

第84回総合部会

日 時:2000年9月2日 (土) 午後2時~5時
会 場:中野区商工会館(3F小会議室) 中野区新井1-9-1 TEL:03-3389-1181
参加費:300円

1. 講 演:長島 隆氏(日本医科大学)「『生命倫理教育』のあり方について-いくつかの実践の中から」

2. 講 演:舘 有紀(たて ゆき)氏(東海病院外科)「医療者のあるべき姿」

 


「生命倫理教育」のあり方について-いくつかの実践の中から
長島 隆氏(日本医科大学)
 この間私は本務校では2年間だけ、「生命倫理」に関して講義を行うとともに、その他文系大学で何度か「生命倫理」に関して講義の中で話してきた経験がある。その中で、いくつかの点で「生命倫理教育」という点で気づいたことを含めて、報告を行いたいと思う。

1.医科大学における「生命倫理」教育の難しさについて

2)講義要綱案(資料1)

3)講義要綱案(資料2)

2.文系大学における「生命倫理」教育の困難

2)講義要綱案(資料3)

3)講義要綱案(資料4)

と言う二つの点で具体的な実践とその困難について資料を示しながら報告することにしたい。

その前提としての私の「生命倫理」教育に対する一つのスタンスを示しておきたい。

1)私は「生命倫理」という題目の授業は一つしか持ったことがない。非常勤先で持つ場合も基本的に「応用倫理学」という題目の講義を引き受けさせていただいている。

2)課題そのものが現在進行形のものであること→従って、私が学生諸君よりも知識的に上であると言うことを前提してはいない。

3)必要とする資料は膨大であるがゆえに、学生諸君にテーマを持っていただく。そしてそのテーマに即して資料収集をしていただく。→出席の基準。

4)前提する「能力」A.コンピューターを一定操作できること、B.英語で読み書きできること、この二つの能力を前提する。

 


医療者のあるべき姿
舘 有紀(たて ゆき)氏
略 歴:昭和43年 福井県生まれ。平成6年 自治医科大学卒業、福井県立病院勤務
平成8年 福井県社会保険高浜病院外科勤務
平成10年 茨城県東海村立東海病院外科勤務
平成11年 朝日新聞北海道支社主催 らいらっく文学賞受賞(http://ntt.asahi.com/paper/lilac/index.html)
平成11年 中日新聞北陸本社主催 日本海文学大賞受賞(http://www.hokuriku.chunichi.co.jp/syousetu/)

今世紀、西洋医学は最大の発展をとげましたが、人間の幸福に貢献するべき医学は本当の意味で進歩しているのでしょうか。デカルト以来、人間の肉体を物質的にとらえる傾向が強くなってきた西洋医学を、根本から見直さねばならない時期に来ているように思います。
医療のあるべき姿とは一体何なのでしょうか。これは、医学教育を考えていく上でも重要な観点であり、よりよき医療を語るためには、医療者のあるべき姿に ついても考える必要があるように思います。現場にいる医療者が、医療の真なる意味での発展を願いつつ、同時に自分を磨くこと、練れた人格を努力してつくり 出すことが必要で、それが完成していった時に、明らかに医療現場が変わっていくものと思います。
医療者自ら人生の目的と使命を知り、この与えられた環境で一体自分に何ができるのかを真剣に考えられる高次な精神性を持つには、何が必要なのでしょうか。
自分にとって一番価値あるものは何なのか、それを外に求めるのではなく、自分の内部に求めるというこの観点が、不動な心を作り、揺らがない平静な心の基礎になっていきます。
自分への関心、自己の内部の発見から始まった洞察は、次に他人への関心となり、そして再び自己の世界へ逆照射され、これによって人間世界への研究が進んでいきます。
更にそうした自己確立と他の世界の認識を基にして、次は実際に具体的に医療現場を変え、それが世の中を変え、本来の医学のあるべき姿になっていくように思います。
合理性を超えた精神世界を認める考えのもとで、更なる医学の進歩を目指していく社会、それは決して現代医学を停滞させるものではなく、医療者のあるべき姿勢ではないだろうかと結論づけたいと思います。

参考書籍:日野原重明訳「平静の心~オスラー博士講演集」(医学書院)、渡部昇一著「ヒルティに学ぶ心術」(致知出版社)、日野原重明著「道を照ら す光」(春秋社)、コリン・ウィルソン著「至高体験(自己実現のための心理学)」(河出書房新社)、渡部昇一著「人間らしさの構造」(講談社学術文庫)、 渡部昇一編集「渡部昇一の人生観・歴史観を高める事典」(PHP研究所)、渡部昇一他「知性としての精神~プラトンの現代的意義を探る~」(PHP研究 所)、末木文美士著「日本仏教史」(新潮文庫)

 

第83回総合部会

日 時:2000年8月5日 (土) 午後2時~5時
会 場:中野区商工会館(3F小会議室) 中野区新井1-9-1 TEL:03-3389-1181
参加費:300円

1. 勉強会:ES細胞(胚性幹細胞)について(続)(14:00~15:30)

2. 講 演:花園 豊氏(自治医科大学)「ES細胞研究の現状と今後」

 



1. 勉強会

ES細胞(胚性幹細胞)について(続)
 先月に引き続いてES細胞についての勉強会を開催します。今月は先月あまり取り上げることのできなかった科学技術会議生命倫理委員会ヒト胚研究小 委員会の報告書「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方(案)」を巡って、パブリック・オピニオンと委員会の議論を議事録で辿りなが ら、問題点の整理をしてみたいと思います。特に以下のような問題について参考資料をご覧いただいてご意見をまとめておいていただけると幸いです。

1)生命の萌芽としての意味を持つという「ヒト胚の位置づけ」をめぐって。ヒトの生命の始まりをどう考えるべきか。

2)ES細胞樹立のために、余剰受精卵を使用することをめぐるインフォームド・コンセント。

3)ES細胞研究によって開かれる利益と危険性。

1)ES細胞を研究することと臨床への応用、医療産業の展開というレベルの違いをどう捉えるか。同時に各国の取り組み方の相違をどう考えるか。

4)ES細胞をめぐる倫理問題の核心とは何か。

参考資料:

1)科学技術会議生命倫理委員会
ヒト胚研究小委員会「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方」平成12年3月6日
http://www.sta.go.jp/shimon/cst/rinri/kihon00306.html

2)科学技術会議生命倫理委員会 ヒト胚研究小委員会(第14回)議事録
http://www.sta.go.jp/shimon/cst/rinri/hito-gijiro14.html

 



2.講演

「ES細胞研究の現状と今後」
花園 豊氏(自治医科大学)
略 歴:昭和61年、東京大学医学部卒業。平成3年、日本学術振興会特別研究員。平成5年東京大学医学部第3内科助手。平成7年、米国国立保健衛生研究所(NIH)客員研究員。平成10年自治医科大学講師。 平成12年、日本血液学会奨励賞。専門は内科学、血液学、遺伝子治療。

1998年11月米国の二つのグループからヒト胚性幹(ES)細胞株樹立の発表があった。Wisconsin大学のThomson博士と Johns-Hopkins大学Gearhart博士のグループである。ヒトES細胞は、ヒトの初期(着床の前後)の発生段階である胚盤胞の内部細胞塊に 由来する細胞で、様々な細胞、組織に分化できる多能性幹細胞である。この細胞が株化され、試験管の中で自由に増やせるようになったのである。この細胞を研 究することによって、従来は研究手法が限られていたヒトの発生・分化やさまざまな疾病の原因の解明につながると思われる。そればかりではなく、ES細胞研 究には、新薬の開発や細胞療法、移植療法といった新しい治療法の開発など、多くの期待が寄せられている。例えばES細胞を心筋細胞に分化させ、それを移植 することによって心不全を治療したり、膵臓ラ氏島細胞に分化させて糖尿病の治療に用いることが可能になるかもしれない。このES細胞研究が、ITに代って 次世代のリーディングインダストリーを担うライフサイエンス関連産業の基盤技術を生み出す可能性もあって、ビジネスの見地からも熱い視線が投げかけられて いる。米国政府は、ヒトES細胞株樹立後わずか1年余りでヒトES細胞研究に対するガイドラインを発表し、この研究を国家的見地から推進しようとしてい る。しかし、ヒトES細胞株が不妊治療で得られた余剰胚や中絶胎児を用いて樹立されことから、倫理的な問題も巻き起こした。今回は、ヒトES細胞の樹立か らそれを用いた研究の現状、展望を中心に、米国生命倫理諮問委員会(NBAC)の勧告も含めて、なるべくわかりやすくお話したい。

 


第82回総合部会

日 時:2000年7月1日 (土) 午後2時~5時
会 場:中野区商工会館(3F小会議室) 中野区新井1-9-1 TEL:03-3389-1181
参加費:300円

1. 勉強会:ES細胞(胚性幹細胞)について(14:00~15:30)

2. 講 演:石川鎮清氏(自治医科大学)「疫学研究におけるインフォームド・コンセントについて」

 



1. 勉強会

ES細胞(胚性幹細胞)について
 先月の総合部会では、特に年間テーマ「先端医療における倫理問題」に関連して、個人研究発表と並んで、会員相互の勉強会という形式を試みてみよう ということになりました。その手始めとして「ES細胞」をテーマとする勉強会を行います。とりあえず会員の皆様には最近出版された『ES細胞』(大朏博善 著、文春新書)を基本文献として読んできていただきたいと存じます。勉強会では、まず30分ほどかけて、この本の梗概を紹介し、問題点を抽出してみたいと 思います。次に平成11年7月19日の厚生省厚生科学審議会先端医療技術評価部会議事録、ならびに科学技術庁科学技術会議生命倫理委員会ヒト胚研究小委員 会の報告書「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方(案)」(平成12年3月13日)、それに対する意見具申(当学会からは、長島隆 国内学術交流委員会委員長が行いました)等を紹介し、どのような議論が行われているかを見てみたいと思います。なおできれば長島先生ご自身に解説をお願い できればと思っております。

参考資料:
1)科学技術会議生命倫理委員会 ヒト胚研究小委員会「ヒト胚性幹細胞を中心としたヒト胚研究に関する基本的考え方」平成12年3月6日
http://www.sta.go.jp/shimon/cst/rinri/kihon00306.html

2)科学技術会議生命倫理委員会 ヒト胚研究小委員会「パブリック・コメントの類型と対応についての基本的な考え方」
http://www.sta.go.jp/shimon/cst/rinri/ken00313.html

3)日本組織培養学会倫理問題検討委員会「非医療分野におけるヒト組織・細胞の取り扱いについて」
http://cellbank.nihs.go.jp/jtca/ethics/e_index.htm

4)厚生科学審議会先端医療技術評価部会議事録
http://www.mhw.go.jp/shingi/s0004/txt/s0428-16.txt

 



2. 講 演

疫学研究におけるインフォームド・コンセントについて
石川鎮清氏(自治医科大学)
 略 歴:平成元年自治医科大学卒業.平成元年6月~平成10年5月 福岡県内で研修,および離島 を含む地域医療に従事.平成10年6月~ 自治医科大学地域医療学助手.専門分野:地域医療学,疫学,平成5年より,地域住民を対象とした循環器疾患のコ ホート研究に携わる.平成10年より,疫学研究におけるICに関しての研究に携わる.

インフォームド・コンセント(IC)は,主に臨床現場において,医療過誤などの問題を契機として理解されることが多い.しかし,医学的侵襲を含む 医療行為のみならず,人を対象として行われる研究については,侵襲の程度に関わらず,ICが必要である.我々は,人を対象とする医学研究の中でも,疫学研 究についてのICに関するガイドライン策定を目的として平成10年度より調査検討してきた.
研究の主な内容は,
1)疫学研究者を疫学研究者を対象に発表された研究におけるICの実施状況について自記式調査を実施.
2)研究対象となる候補者として,健診の場を利用した一般住民,および,医療問題に関心の高い方への疫学研究およびICに関する意識調査.
3)海外の文献をレビューし海外における疫学研究におけるICのあり方についての調査.
などを行った.
これらの調査により研究者と対象者では,研究に対する感覚にズレがあることがわかった.また,一般住民には疫学研究という言葉自体に馴染みがうすく,疫 学研究という概念自体を普及させる必要性を改めて認識した.ガイドラインを作成する上で,上記の意識調査の結果を踏まえながら,諸外国のICのあり方など を参考にして,今回「疫学研究におけるインフォームド・コンセントに関するガイドラインVer10」 をまとめた.
これまで行ってきた研究の内容について,および,今回作成したガイドラインについて内容を紹介するとともに,現在のICを取り巻く状況についても簡単に発表する.
本演題に関するご質問,お問い合わせは,石川鎮清氏まで.

 


第80回総合部会

日 時:2000年5月13日 (土) 午後2時~5時
会 場:中野区商工会館(1F第2会議室) 中野区新井1-9-1 TEL:03-3389-1181
演 題:今後の医学教育のなかの倫理教育の在り方について
演 者:大井賢一
参加費:300円

抄 録:

平成13年以降の医師・歯科医師国家試験において予想される医療倫理関連問題の試行
~今後の医学教育における医療倫理教育の在り方について~大井賢一
 医師・歯科医師になるためには,とにかくクリアしなければならないのが「医師国家試験」「歯科医師国家試験」です.平成13年(第95回)からは 14年ぶりの大幅な改変が実施されます.この改変の背景には,今日,わが国における医療を取り巻く環境が急激に変化していることが挙げられます.
とくに,今日の医学・医療のめざましい進歩が,一方で医の倫理や生命の尊厳の問題を投げかけ,人権意識の高まりに伴うインフォームド・コンセントの重要 性が指摘されています.21世紀の医療を担う医師に求められる資質としては,医学・医療に関する専門的知識・技術だけでなく,生命の尊厳や個の尊重,医の 倫理に関する深い認識を持っていることが不可欠です.
そこで,医師および歯科医師国家試験に過去および今後,出題されることが予想される医療倫理に関わる問題を一問一答形式で用意いたしました.なお,予想 問題については,2年前に日本医学哲学倫理学会関東支部の有志により出版されました『医療倫理Q&A』から,それぞれのポイントとなる事項を出題 しております.
今回は,まず会員の方に,医師・歯科医師国家試験がいかなるものかを体験していただく意味も含めて,この問題に解答していただきます.その後で,問題の解説・解答を行いながら,今後の医学教育の中で倫理教育は,どのように実施されるべきなのか,について提案いたします.

本演題に関するご質問,お問い合わせは,大井賢一まで.

 


第79回総合部会

日 時:2000年4月1日 (土) 午後3時~5時
会 場:中野区商工会館(3F小会議室)中野区新井1-9-1 TEL:03-3389-1181
演 題:二重結果原理の諸問題
演 者:尾崎 恭一 (埼玉学園大学)
参加費:300円

抄 録:

二重結果原理の諸問題
尾崎 恭一 (関東学園大学)
 1.二重結果原理の諸問題
(1)その概念 —- 行為そのもの.意図と予測.行為の位置.価値比較.
(2)弁神的背景 —- 悪の原因責任
(3)違法性阻却と二重結果原理
・緊急避難 ・正当行為 ・正当防衛
(4)倫理学的位置づけ—- 義務論からの結果論への譲歩
2.生命倫理上の機能
(1)告知(不治の重病)
(2)中絶と子宮摘出(←→胎児頭部粉砕)
(3)自殺(殉死)
(4)間接的安楽死(←→積極的慈悲殺)
(5)セデーション sedation
3.その限界と打開策
(1)許されざる「緊急避難」ケース
(2)意図・予見の区別の曖昧さ
(3)苦痛延長の延命義務の問題

本演題に関するご質問,お問い合わせは,尾崎 恭一まで.

 


第78回総合部会

 日 時:2000年3月4日 (土) 午後2時~5時
会 場:中野区商工会館(1F第1会議室) 中野区新井1-9-1 TEL:03-3389-1181
演 題:唯識の世界観-その生命観にもふれつつ
演 者:竹村 牧男氏(筑波大学)
略 歴:1971年東京大学文学部印度哲学科卒業,同大学院人文科学研究科印度哲学専修課程博士課程,東京大学文学部助手,文化庁文化部 宗務課専門職員,三重大学人文学部助教授,筑波大学助教授(哲学思想学系)を経て,1992年4月より同教授.日本印度学仏教学会会員・理事,日本宗教学 会会員・評議員・編集委員,東方学会会員,比較思想学会会員・理事.文学博士.著書『唯識三性説の研究』(春秋社),『唯識の構造』(春秋社),『親鸞と 一遍』(法蔵館)など.
参加費:300円

抄 録:

唯識の世界観-その生命観にもふれつつ
竹村 牧男氏(筑波大学)
 大乗仏教の重要な思想に,唯識説がある.インドにおいてほぼ5世紀頃,大成されたものであるが,一切がヴァーチャル・リアリティ化した今日にとって,次第に関心を集めているように思われる.
今回は,まずはじめに,この唯識思想の概要を,識の考え方・阿頼耶識の意味・言語と現象世界の関係といった観点から紹介・解説してみたい.次にこれをふまえて,その生命観や倫理思想について極めて簡単ではあるが,私見を述べさせていただこうと思う.
唯識では,われわれが見たり聞いたりしているものは,その視覚や聴覚の中にあると考える.意識とその対象を考えれば,このことはたやすく理解されるであろう.こうして識の中には,知るものと知られるものとの双方が備わっていると見る.
その識に,唯識では八つの識があるという.眼識,耳識,鼻識,舌識,身識,意識と末那識,阿頼耶識の八つの識である.この八つの識によって,個人の存在(世界を含む)を説明するのである.
この中,阿頼耶識とはどういうものであろうか.それはわれわれの生命の根源のようなものであり,また生死輪廻を説明するためのものである.われわれの意 識を超えた領域に,無始より無終に刹那刹那生滅しつつ相続していく世界があり,ここにわれわれの行為の記憶が貯蔵されることによって,みずからの行為の結 果をみずからに受け,生死輪廻が成立するという.
なぜわれわれが生死輪廻するかというと,自己や世界を実体視し,それに執着して止まないからである.自己も世界も,本来,八つの識のみから成り立ってい て,現象以外ではありえないのに,その真実を知ることなく,実体的存在と見なしてしまう.そこに介在するのが言語である.唯識の三性説は,偏計所執性,依 他起性,円成実性といういわば三種の存在形態によってこの辺のことを興味深く説明している.
さて,唯識は結局,一個の生命を,自己と世界の総体,身体を焦点に主体と環境が交渉する総体に見ていると思う.そこに独自の生命観があるといえよう.ま た生命の本質を,われわれの意識を超えた絶対の主体に見いだしていると思う.ここに,宗教的な生命観があると思う.一方,唯識は,自己の目標を自利・利他 の主体と成就することにおいており,それは関係の中の個の自覚に基づくものと思う.ここに倫理の基盤があるのではないかと思うのである.

 


第77回総合部会

日 時:2000年2月5日 (土) 午後2時~5時
会 場:中野区商工会館(3F小会議室) 中野区新井1-9-1 TEL:03-3389-1181
演 題:患者の訴えに対する医療者の判断についての分析
演 者:宮下 浩明(自治医科大学)
参加費:300円

抄 録:

患者の訴えに対する医療者の判断についての分析
宮下 浩明(自治医科大学)
 不眠の訴えに対する医療者の判断について,5つの意見を提示し,それぞれの判断に根拠となる前提を示した.「相手の状態を,私は知っている」「患 者にとっての『よい状態』=『QOLが上がった状態』を知っている」「患者は適切に求めることができる」「”わたしのすることは良いこと”で,”良いこと をする結果,患者の良い状態が生じる」等の前提のもとに,医療者の判断が為されていることが考察された.これらの前提について真偽を検討することにより, 医療判断の確からしさについて考察した.
一方,医療行為の目的はその対象が良くあることを目的とする,と清水哲郎は述べている.対象が良くある,という目的に合致した医療行為を遂行するために は,適切な医療判断を行う必要がある.先に見た前提によると,対象の良くあることについて本人から情報を得る前に,すでに知ってしまっているとして,判断 が為されている.この場合,相手にとっての良くあることを知ることなく医療判断がなされるということであり,これに続く医療行為は,本来の,その対象の良 くあることに向かうという条件を満たすことができない.
医療行為の目的を適切に遂行するための条件として,対象にとっての良くあること,を知ることが重要であると考える.そのためにすべきことは,対象にとっ ての良くあることは,他人にとっての私には分からない,という前提のもとで相手と相談しながら判断を勧めることであると考える.
逆に言えば,日常の医療判断が患者のwell-beingの確認なしに為されているために,患者-医療者間での摩擦が生じ,その結果なされる医療行為は倫理的に考えても,対象に”害”を生じうる可能性を持つことになると考えられる.

本演題に関するご質問,お問い合わせは,宮下 浩明まで.

 


第76回総合部会

日 時:2000年1月8日 (土) 午後2時~5時
会 場:中野区商工会館(1F第2会議室) 中野区新井1-9-1 TEL:03-3389-1181
演 題:仏教の戒律に見える自殺(断人命)
演 者:岡本 天晴(防衛医科大学)
参加費:300円

抄 録:

仏教の戒律に見える自殺(断人命)
岡本 天晴(防衛医科大学)
(キーワード)
戒:sila,律:vinaya,「断人命戒」,波羅夷罪,因縁譚,不浄観,病比丘,病相應,安楽死,捨身

(問題の所在)
仏典の経や律には多々,自殺に関する問題が論じられている.自殺は仏教では否定され禁止されているが,教団内部では時々発生したようである.これは,修 行僧の不浄観や病による耐え難い疼痛によって発生したようであるが,それがなぜ禁止されたかを論じ,あわせて現代の医療現場の安楽死や尊厳死との異同を論 じる.

(資 料)
1.「断人命戒」(manussa-viggaha-parajika, Vin,vol.III,p.78:vadho manusyavigrahasya, Tatia, Pratimoksa,p.8)とは,波羅夷(サンガからの追放)に処せられる「殺戒」をいう.
パーリ戒経,断人命戒の条文:(いずれの比丘といえども,故意に人体の生命を奪うならば,あるいはそのために刀を持つものを求め,あるいは死の美を賛美 し,あるいは死を勧めて,「咄,男子,この悪しき苦しき生は,汝にとって何の用ぞ.死は,汝にとって生よりは勝るべし」と,心に思念し,種々の方便をもっ て死の美を賛美し,あるいは死を勧めるならば,これまた波羅夷にして,共住すべからざるなり.)
2. 律蔵:因縁譚 -於いて:毘舎離.時:成仏六年冬第二半月十日.
3. 殺の方法・種類:『四分律』(自殺,造使,展転使,重造使,指示,言説,眠時説,向眠説,酔時説,向酔説,狂時説,乱心説,向狂心説,病壊心説,向病壊心説,遺書,作相,手語,相似語,独独語,不独独語,戯語,色声香味觸,優波頭,優波害)
4. 殺の判定:パーリ律(故意でないもの,知らないもの,殺意のないもの,強靱,最初の犯行者は不犯である)
5. 雑阿含経,第三病層相応:跋迦梨経,闡阿経

本演題に関するご質問,お問い合わせは,岡本 天晴まで.

 


第75回総合部会

日 時:1999年12月4日 (土) 午後2時~5時
会 場:中野区商工会館(3F小会議室) 中野区新井1-9-1 TEL:03-3389-1181
演 題:テーマ1:我が国における病院倫理委員会をめぐる問題
    テーマ2:自己卵巣凍結保存後移植について
演 者:岡田 清 氏
略 歴:昭和32年東京医科大学卒業.昭和33年都立広尾病院産婦人科入局.昭和44年都立大久保病院産婦人科医長.昭和60年都立母子 保健院院長.平成4年都立大塚病院倫理委員会委員長.平成10年退職,非常勤職員として現在に至る.平成1年3月都立病産院倫理委員会設置検討委員会委員 長.平成3年1月都立大塚病院倫理委員会委員長.平成7年3月都立病産院倫理委員会委員,現在に至る.現在,東京医科大学産婦人科学教室客員教授,日本産 婦人科学会東京地方部会評議員,都立病院医療事故予防対策推進委員会顧問.
参加費:300円

抄 録:

テーマ1:我が国における病院倫理委員会をめぐる問題
テーマ2:自己卵巣凍結保存後移植について
岡田 清 氏
テーマ1:我が国における病院倫理委員会をめぐる問題

医療に関する倫理委員会としては,「Institutional Review Broard:IRB(施設内審査委員会)」と「Hospital Ethics Committee:HEC(病院倫理委員会)」があります.このうちHECは,臨床において日常的に発生する倫理的問題を対象とするものであります,患者や人権や生命を擁護する上で極めて重要な役割を有しているものと位置づけられています.
しかしながら,我が国におけるHECの普及と活動は満足すべき状況にはなく,そのあり方等についてあらためて検討すべき時期にあると思います.
そこで今回は,我が国におけるHECをめぐる問題として,都立大塚病院や多摩南部地域病院における臨床上の倫理問題をご紹介するとともに,(1)我が国 のHECの現状,(2)HECが普及・活発化しない理由,(3)現状を改善するために必要なこと等について検討したいと思います.

テーマ2:自己卵巣凍結保存後移植について

最近,米国において,自己の卵巣を摘出し一定期間凍結保存した後に再び自分に移植するという医療が紹介されました.
この方法を応用することにより,閉経した女性でも妊娠し分娩することができるようなるものと推測されています.また,移植した卵巣から分泌されるホルモ ンにより,閉経後も若々しく生きられることや,高コレステロール血症や心筋梗塞,脳血管障害,骨粗鬆症等の成人病を予防でき,寿命も延長されることが期待 できます.
しかしながら,このような医療を一般的に実施することについては,医療の本質や倫理に関する問題,さらに社会全般に与える影響等,慎重に検討すべき課題 が多いと考えます.特にこの医療は,高度の技術や設備を必要としないものであるだけに,今からその実施の是非や留意事項等について検討しておくことが臨ま れます.
そこで今回は,話題提供としてこの医療についてご紹介するとともに皆様のご意見を頂戴したいと思います.

 


第74回総合部会

日 時:1999年11月6日 (土) 午後2時~5時
会 場:中野区商工会館(3F小会議室) 中野区新井1-9-1 TEL:03-3389-1181
演 題:日本生命倫理学会学会誌『生命倫理』の論文に見られる議論
演 者:黒須 三恵(日本医科大学)
参加費:300円

抄 録:

日本生命倫理学会学会誌『生命倫理』の論文に見られる議論
黒須 三恵(日本医科大学)
 私は医学部の中の法医学に所属していますが,10年前より脳死・臓器移植に関心を持つようになり,最近では安楽死や生殖医療などにも関心が広がっ てきた.このような生命倫理に関しては,日本生命倫理学会や日本医学哲学・倫理学会や種々の研究会等で,いろいろな議論に接してきたが,まだまだ勉強不足 で整理されていないため,もやもやした状態と何か物足りなさを感じている.
そこで,創立12周年目を迎える日本生命倫理学会発行の学会誌『生命倫理』では,どのようなことが議論されているのかを調べることにした.
多くの人を納得させるような理論を,生命倫理でも期待していた私は,「演繹的に適用することによってこれらの問題を解決できるような倫理理論は存在しな いから,上記のような諸要因を考慮に入れながら,試行錯誤的に少しずつ進んでいく以外に,われわれのとりうる道はないのである.」との考え方に戸惑いを感 じつつ,それでも基本的な原則・原理を� 烽 F に,理論化の営みは必要と思われる.
私が感じる物足りなさに関連して,「技術の発達が人の欲望を止めどなく太らせ,その欲望が直接・間接に技術の独走を許して,いたずらに既成事実の追認, ないし後始末に右往左往して甲論乙駁に時を費やしているかに見えることに,もう少し自己批判の声が聞こえてきてもよいのではなかろうか.」という指摘があ る.また別の論者は「生命倫理にとってのもう一つの重要な課題が提起される.それは,医療技術のこれからの発展をどのようにコントロールするかであり,こ れの解決のためには社会政策的考察が必要であろう.」と述べている.これらは,われわれの専門家やその集団である学会の今後の社会的役割を考えていく上 で,検討すべきことであろう.
出席者とともに「生命倫理」の過去・現在から未来を考えてみたい.

本演題に関するご質問,お問い合わせは,黒須 三恵まで.

 


第73回総合部会

日 時:1999年10月2日 (土) 午後2時~5時
会 場:中野区商工会館(3F小会議室) 中野区新井1-9-1 TEL:03-3389-1181
演 題:心は脳の所産か
演 者:曽我 英彦(明星大学)
参加費:300円

抄 録:

心は脳の所産か
曽我 英彦(明星大学)
 脳死問題の根底にあるこころと脳の関係は関東支部総合部会のテーマの一つであり,特に95年の松野進,菊池美也子漁師による「心は脳の所産か」という問題についての発表は多くの有益な示唆を与えた.しかしそのときは表題の問いに対して決定的な答えは出ていなかった.
脳生理学は基本的には心を脳に還元しようとする方向で研究を進めているが,ノーベル賞学者のエックルスやK・ポッパーなどは心は脳に還元できないという 立場をとる.その間の脳の生理学の発展に伴って,感覚や感情のphysicalな機構はほぼ解明されたと言える.しかし非物質的な対象とされる理念的なも のについての認識は,脳という物体に還元できない心あるいは総合的理性によるという考えは今も根強い.
今回は心はさしあたって脳における電気・化学的な過程とする立場から理念もまた身体内外の全体的な情報変換過程における大脳神経網の状態と捉えることによって,あえて「心は脳の所産である」という結論を表明し,批判を仰ぎたい.

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第72回総合部会

日 時:1999年9月4日 (土) 午後2時~5時
会 場:中野区商工会館(1F第2会議室) 中野区新井1-9-1 TEL:03-3389-1181
演 題:わが国の医療における総合医の役割
演 者:梶井 英治氏(自治医科大学地域医療学)
略 歴:1978年自治医科大学卒業.鳥取県立中央病院にて初期,後期研修.国保日南病院,国保知頭病院へ派遣.1985年自治医科大学 血液科非常勤職員.1988年自治医科大学人間生物学助手.1992年自治医科大学法医学・人類遺伝学助教授.1995年同講座教授.1998年自治医科 大学地域医療学教授(兼任).
参加費:300円

抄 録:

わが国の医療における総合医の役割
梶井 英治氏(自治医科大学地域医療学)
 高齢化の進展,医療技術の革新,食生活の変化などに伴って,疾病構造は大きく変化し,急性の感染症は激変しましたが,一方,がん,心臓病や脳卒中 などの成人病(生活習慣病)や精神障害が増加してきています.このような疾病構造の変化にも戸津宇様々な問題の発生に伴い,従来の治療中心の医療から,健 康づくり,疾病予防からリハビリに至る包括的システムをも包含した新しい医療への転換が求められています.この新しい医療を支え,そして推進していく総合 医の育成は急務と考えられます.それでは総合医とは何か?総合医に求められるものは?などについて,是非,皆様と語り合えればと思います.

第71回
1999年7月3日
田村京子「からだを哲学的に考える」
服部健司「中高年と中高生の関わり」

第70回
1999年6月5日
北 貢一「中高生のこころとからだ-バランスをうまく考えよう」

第69回
1999年5月22日
田能村祐麒氏*「中高生のこころとからだ」

第68回
1999年5月8日
吉田隆江氏*「中高生のこころとからだ-高校でのカウンセリングを通して」
北 貢一「現代社会の潮流と高校教育」

第67回
1999年4月10日
長須正明氏*「現代社会の潮流と高校教育」

*外来講師

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